2025/10/28 17:20

昭和の飲食店には、どこか特別な空気があります。フードやドリンクの香り、人々の動きとともに漂う、日常と非日常のあいだの時間。その店ごとに作られていた手ぬぐいには、店の誇りや美意識が込められていました。今回紹介する「喫茶富士屋」の手ぬぐいを使って作られた着物も、そんな記憶の断片を今に伝えるひとつです。


富士屋の手ぬぐいには、一富士・二鷹・三茄子が描かれていました。日本では古くから初夢に見ると縁起が良いとされる三つのモチーフです。山と空を象徴する富士と鷹、そして豊穣を意味する茄子。商売を営む人々にとって、それは願掛けのような存在でもありました。手ぬぐいにこの図案を選んだ喫茶富士屋のセンスには、粋と洒落、そして祈りが同居しています。


時代を経て、その手ぬぐいがつぎはぎされ、木綿の着物へと生まれ変わりました。布の組み合わせ方には意図的な美があり、単なる再利用ではなく、日々の暮らしの中で生まれた“構成の美学”が感じられます。人々が自分たちの手でつくり、着て、直し、また着る。そうした営みの痕跡こそが、このパッチワークに宿る物語です。


現代では、こうした古布のつぎはぎが「Japanese Vintage Patchwork」として世界中のクリエイターやデザイナーから注目されています。日本の生活文化に根ざした素材の使い方、偶然の重なりから生まれる美しさが、アートやデザインの文脈で再評価されているのです。リメイク素材として服やバッグに仕立て直すのはもちろん、インテリアのファブリックアートとして飾る人も増えています。


かつて飲食店の一隅で使われていた手ぬぐいが、時を越えて新しい表現の素材になる。そこには、ものを大切にする日本人の感性と、時代を超えて変わらない美意識が息づいています。昭和の空気を纏ったこの布は、今を生きる私たちに、静かな情緒と創造のきっかけを届けてくれます。




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