武州一の藍染剣道着 ― フェードと刺し子が語る、使い込まれた時間の美

2025/11/04 17:03

深い藍がゆっくりと褪せ、刺し子の凹凸が浮かび上がる武州一の剣道着。
平成後期に作られたこの一着は、実際に使い込まれることでしか生まれない“時間の色”を纏っています。
そのまま羽織としても、リメイク素材としても魅力的なジャパンヴィンテージです。

🔸1. 武州一と藍染の背景

埼玉県羽生市に本拠を置く「武州一」は、藍染の中でも特に厚手の刺し子織りを得意とするブランド。
剣道着の分野では圧倒的な信頼を得ており、柔らかな着心地と強靭な織りの両立で知られています。

この剣道着は平成後期頃のもので、当時の伝統的な染料を用いた本藍染。
藍の深みは、着る人の汗や摩擦、そして年月とともにゆっくりと褪せていきます。
その過程こそが「味」と呼ばれるものであり、武州一の剣道着が他と違うのはその経年の美しさです。

この個体は実際に長く使い込まれた一着で、袖や襟には自然なアタリが生まれています。
生地の擦れ、微妙なトーンの変化、刺し子の凹凸が織りなす立体感。
それらが重なり、まるで藍が呼吸しているような存在感を放っています。

人工的に作られた“加工”ではなく、
実際の時間と使用が生み出した“育ち”であることが、この剣道着の最大の魅力。
まさに一枚の布に宿る「生活の記録」です。

今回の撮影では、長めの藍染古布をストールのように首に巻き、剣道着と合わせてみました。
深く褪せた藍が、デニムや白シャツの上にもしっくりと馴染みます。
日常の中でさらっと羽織るだけで、静かな強さを感じさせてくれる一着です。

近年では海外を中心に、剣道着や野良着をファッションピースとして楽しむ人も増えています。
また、刺し子の生地を使ったリメイクや再構築のベース素材としても人気です。
ハードに着られた跡が、そのままデザインとして生きる――そんな一着です。